多くの女性が一度は夢見るであろう、平穏で満たされた結婚生活。専業主婦として家庭に尽くし、愛する子供の成長を見守る日々。そして何より、みんなの尊敬されてる「自慢の夫」の隣で微笑むこと。
しかし、そんな幸せな状態を一撃で破壊するのが「夫の不倫」である。
今回ご紹介するのは、まさにその悲劇を経験した女性、Sさん(当時44歳)の体験談だ。きっかけは、ありふれたスマートフォンの通知。その日を境に、彼女の世界は色を失った。真実を問い詰めたい。裏切りへの怒りで、今にも張り裂けそうになる。 ──だけど、言い出せない。
専業主婦という立場と子供のいる現実が、彼女の言葉を封じ込める。
これは、すべてを知りながらも声を上げられないという葛藤を抱え、日に日に深まる夫の裏切りを前に、一人の女性がどのように自分と向き合い、未来への一歩を踏み出したかを綴った、真実の物語である。 実際の詳しい心の動きや夫の変化については、本章でSさん自身の言葉によって語られていく。
崩れ始めた日常、そして絶望の夜

夫は、私の自慢でした。仕事に誠実で、週末には息子のサッカーの練習に付き合う優しい父親。16年間、私は夫の隣が世界で一番安全な場所だと信じていました。
変化の兆候は、今思えば半年前からありました。 「最近、付き合いも大変でさ」 そう言って、夫は新しい腕時計をつけ始めました。それは、私が知っている彼の趣味よりも、ずっと華やかで高価なものでした。今まで無頓着だったスーツや髪型にも気を遣うようになり、「接待だ」と言って深夜に帰宅する日が増えていきました。
私の心に小さな染みが広がっていくのを感じながらも、懸命に打ち消していました。「夫は第一線で頑張っているんだから」「私が夫を信じなくてどうする」。そう自分に言い聞かせて。
あの夜までは。

その日も、夫の帰りは深夜2時を回っていました。リビングのソファで寝落ちした夫の隣のテーブルに、無造作に置かれたスマートフォン。その画面が、暗闇の中で不意に光りました。
【〇〇】 「今日はありがとうございました!遅くまでごめんなさい。気をつけて帰ってくださいね😊」
一瞬、息が止まりました。知らない女性の名前と、あまりにも親密なメッセージ。名前の後ろについたハートマークが、私と夫の間にはもう何年も存在しない記号であることが、現実を無慈悲に突きつけてきます。
心臓が凍りつき、指先から血の気が引いていく。私は震える手で口を覆い、声を殺してその場にうずくまることしかできませんでした。夫の穏やかな寝息だけが、静まり返ったリビングに響いていました。
旦那に言えない言葉、見えない牢獄

あの日以来、私の日常から「色」が消えました。夫が「おはよう」と言っても、その声は壁の向こうから聞こえるように遠い。息子の笑顔だけが、かろうじて私をこの世界に繋ぎとめていました。
すべてを問い詰めたい。けれど、できませんでした。 専業主婦の私には、経済力がない。この安定した生活も、息子の未来も、すべて夫の収入に依存している。私が真実を口にすれば、この家庭は終わる。その恐怖が、私を声の出ない牢獄に閉じ込めました。

夫は、私が気づいたことなど露知らず、完璧な「夫」と「父親」を演じ続けていました。その лице さに吐き気がするのに、私もまた、「何も知らない幸せな妻」を演じるしかない。家庭という舞台の上で、仮面を被った夫婦が、ただ黙って食卓を囲む。地獄のような日々でした。
怒りと悲しみ、そして無力感。その黒い感情が、日に日に私の心を蝕んでいくのを感じていました。
苦しい暗闇でつかんだ一本の糸

誰にも相談できず、完全に孤立していたある深夜。私はいつものように、眠れずにスマートフォンの光を見つめていました。その時、ふと目に飛び込んできたのがオンライン占いでした。
正直最初は占いを馬鹿にしていました。でも、誰にも言えないこと悩みを胸に抱えているのが辛すぎて。顔も知らない相手だからこそ、この醜い感情もすべて吐き出してしまえるかもしれない。まさに、藁にもすがる思いでした。オンラインの占いは今の私には救いの手に見えたのです。
電話が繋がり、優しい声の女性占い師に、私は堰を切ったように話し始めました。16年間のこと、息子のこと、夫の裏切り、そして日に日に大きくなる憎しみ…。自分でも何を言っているのか分からないくらい、涙ながらに言葉をただぶつけました。
先生は、ただ静かに、私の言葉を最後まで受け止めてくれました。そして、こう言ったのです。
「Sさん。あなたは、何も悪くありませんよ」
その一言を聞いた瞬間、固く縛られていた心の何かが、すっと解けていくような感覚がしました。「辛かったでしょう」「怒るのは当然です」。先生の言葉の一つ一つが、自分を責め続けてきた私の心を、優しく溶かしていきました。

さようなら、私の愛した日々。そして、こんにちは、新しい人生

あの占いでの体験は、一時的な慰めではありませんでした。自分を肯定できたことで、私は初めて、冷静に未来を見つめ直すことができるようになったのです。
そして、気づきました。私が本当に守るべきなのは、嘘で塗り固められた「夫婦」という形ではなく、息子のための「心からの笑顔」だと。
その日から、私は静かに行動を開始しました。無料の法律相談へ通い、自分の権利を知りました。ハローワークで、16年ぶりに仕事を探し始めました。経済的な自立への道筋が見えた時、私の心から恐怖は消え、代わりに静かな自信が湧いてきました。
そしてついに私は夫にすべてを話しました。もう、そこに涙や怒りはありませんでした。ただ、事実と、離婚という私の決意を、淡々と伝えました。彼は、私の変化に狼狽していました。私が何も知らず、何もできずに、彼の庇護の下で生きていくと信じていたのでしょう。
私たちは離婚に向けて、話し合いを進めました。 まずは子供の親権です。親権は私のもとに来るように弁護士さんと調整しました。彼はそこに反論したそうでしたが、あまり強く言えない状態でした。こうして子供は私のもとへ連れていき、私たちの結婚生活は終わりを迎えました。
16年間の結婚生活に終止符を打ったことに、悲しみがないわけではありません。ですが、今の私の心を満たしているのは、それ以上に大きな「解放感」と、未来への希望です。
私はもう、夫の裏切りに心を蝕まれる被害者ではありません。 息子の未来と、私自身の人生のハンドルを、初めて自分の手に取り戻したのです。これからは、息子のための「本物の笑顔」を、私が守っていきます。
まとめ
いかがでしたでしょうか。今回は夫の不倫に気付くも言い出せなかった専業主婦の苦悩を紹介していきました。
結婚16年目、自慢だった夫の裏切りに気づき、絶望の淵にいたSさん。専業主婦という立場と息子の存在が彼女を沈黙させたが、藁にもすがる思いで頼ったのがオンライン占いだった。そこで得た「あなたは悪くない」という肯定の言葉が、自己否定という呪いを解き放つ。彼女はもう、ただ涙するだけの被害者ではない。自らの意思で未来を選び、息子と正直に生きるための離婚という力強い一歩を踏み出したのだ。
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